煙々創苑レポ① 謎の家系温泉

まずいラーメンを食わされて、私の心はもやもやしていた...。

『私』こと、煙々創苑から生まれた煙草の妖精『きゃしろ』は、特にやることのない怠惰な生活を送っている(煙草の妖精のやることなんて、せいぜい街中の喫煙所を探してマッピングしたデータをJTの喫煙所マップに転送するくらいしかない)。
そもそも私は別にラーメンが好きなタイプではない。というか外にご飯を食べに行くことも趣味ではない。家でぐうたらとうたたね気分でYoutubeを眺めながらカップ麵を食べるだけで満足できる(妖精は小柄なので小食である)。

ではなぜ私が、せっかくの休日となった月曜に、わざわざまずいラーメンを食べて気分を害したのかと言えば、布団で熟睡している最中、寝起きドッキリが如くピンポンも押さず、上の階に住んでいる友達、後藤くんが私の部屋に突撃してきたからだ。入ってくるなり「ラーメン食いに行こうよ」と誘ってくる強引さに押し負けて、私が駆り出された、という訳なのだ。

福岡県福岡市、南区井尻_。煙々創苑からは若干離れた位置にあって、そこまでの賑わいもないエリア。所謂住宅地で、目立った観光名所もない場所。そんなところに、私と後藤くん、そしてラーメン通である煙々創苑の苑長(つまり、私の生みの親だ)としめくんと、構成員の顔面ハプニングくんが向かった。

まず第一の失敗は、行きたい店の営業時間・日程を誰も調べずに、なんとなくで遠出してしまったことだと思う。結構な距離を歩いて目当てのラーメン屋に向かったのにも関わらず、まさかの定休日。全員落胆。
第二の失敗は、ラーメンの口になってしまったこと。「ラーメンに行く」なんて覚悟を決めてしまった以上、ラーメン以外を胃に流し込むなんてことはできない。それは同行者全員が思っていたはずだ。ここでもう少し妥協して、別のジャンルで店を探せば、あんな目には合わなかっただろう。
ラーメン屋の定休日は何故か月曜日が多いみたいで、行く場所すべてのラーメン屋が閉まっている。そんな中、一つだけ開いているラーメン屋があったので、食欲が我慢できなくなった(歩き始めて既に40分近く経っていた)四人は駆け込むようにしてそのラーメン屋に入る。

多くは語るまい。後藤くんの評は「風情を食べたね」だった。
そんなこんなで井尻まで出てきてしまった私たち。ふと私が「臭いな...」とつぶやいたタイミングで(思ったことを呟いてしまうタチなのだ)、としめくんと顔面くんがソワソワし始めた。

「なんだろう...何か、ラーメン以外の異臭がする...」と、正直な私。
「ああ、としくんと顔面はね、3日間風呂入ってないからね」と後藤くん。
正気かこいつら、妖精とはいえ仮にもレディの前である。
「このヤニ臭さがいいんだよー」と、苑長としめ。
こんなのが私の生みの親なのか。
シンプル嫌すぎる。

なんと近所に温泉があるらしいという情報を得た私たちは、マップに従って歩いていく。
けれど、近づいているはずなのに、一向に温泉がありそうな気配がない。住宅街の中をひたすら歩かされるばかりで、見渡す限り、家・家・家。温泉のイメージと言えば、なんとなく国道沿いにありそうとか、活気ある場所に近いところにありそうなものだけれど、どこまで行っても単なる住宅街で、それらしき建物を見当たらない。

「ついたよー」と言われて、周りを見渡す。何も現れない。どころか、本当に家しかない...

いや、ある!確かに温泉がある...!

が、どう見ても家だ...!入口もただの民家だ...!

中に入ると昔懐かしい雰囲気漂う受付カウンターがあり、奥から優し気な表情の番台さんがやってくる。

お客さん、今回が初めてですか?
なんだなんだ、この裏メニューとか提案してきそうな感じは。
合言葉が無いと入れません的な雰囲気はなんだ。
番台さんの満面の笑みが逆に不安を煽る。
もうどんな風呂が出てきても驚かない。
「ちょっと熱いから、最初は驚かれるかもしれませんねえ」
その番台さんの発言を、私たち四人は「ふうん、そうか」レベルで、聞き流していた...。

そういう訳で、男女分けられて更衣室へ向かう四人。
まず思ったこと、狭い
人が二人入れるか入れないかの更衣室、そして湯舟。
これまでの銭湯の中で最も狭いと言っても過言ではないだろう。
もう一つ。温泉卵のにおいがする。
独特のガスなのか、なんなのか、香りが特徴的で、本物の『温泉』感がある。
そういう事を考えながら、まずは肩に湯をかけ...

熱い!

え、熱い。ちょっと待って熱い。ん?熱いぞ。
しかもこれ次元が違うレベルの熱さだ。
ペヤングの湯切ってる時に飛び散った湯が手に当たった時の感覚じゃん!
同じタイミングで男湯からも悲鳴があがる。ナンマンダブ。
ちょっと待って、これ肩までつかるとかマジ?
それはもう一種の拷問だよ?
石川五右衛門じゃないよ?私たち。

何度か体を慣らすという意味でも、肩にかけ...熱い
湯舟に...熱ッ
入る前に体を綺麗に...ん-熱い熱い熱い
待って、熱すぎて思考が定期的に乗っ取られる
これじゃあレポも成立しないって。

後藤・としめ・顔面の男風呂からは常時悲鳴が上がっている。
大体「熱い」とか「死ぬ」とかの繰り返しだ。
実際死ぬ。悲鳴があがるのも理解できる。

あと、なんだか口元がしょっぱい
というか湯に味がある
いや、厳密には味はあるけれど、ないというか...。
海水が近いかもしれない。海水を200倍薄めて温泉卵の風味をつけた...みたいな味がする。
というかもうそれに思考がいかないレベルで熱い

だんだん体がなじんできて、湯舟につかることを試みる。
なじんだ後だったので、あんなに熱いと感じている湯舟には意外とスッと入れた。
が、なんだか足の裏がヒリヒリする。手先も同じだ。
異常に血流がよくなっているのを肌で感じる。

と、溶ける...。
気持ちいい...。
「あ、あぁ...」
本当に溶けてしまいそう(物理)な感覚に、思わずおっさんのような声が漏れる。
こ、これが慣れた後の『快楽』か...!
確かに病みつきになりそうな感覚だ。
私が全身の力を抜いた瞬間、

ゴゴゴゴゴゴゴ...

文字通り、地響きが鳴った。
およそ温泉では絶対に聞くことのない音だったが、直後、
私の背中めがけて、勢いよくパイプから熱湯が襲い掛かった。

あああああアツ熱アツアツアツあつ熱熱熱熱死ぬアツアツアツ熱熱熱!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

私がくつろいでいたのは打たせ湯噴射口の目の前だったらしく、見事直撃して死亡。
どう考えても打たせ湯の威力を大幅に超えている勢いで、あれはもはや攻撃といっても差し支えない。
男湯と女湯を交互に行き来する打たせの噴射は、私を襲った後、男湯に標的を変えた。

あがる絶叫。ざまあないぜ。

一通り浸かった後は、湯舟から出て、少しづつ全身に、ゆっくりと浸透させるように桶から湯をそそぐ。
すると、他の湯では絶対に味わえないチルい感覚を得ることができる。多分これが正しい入り方ではないだろうか。
少なくともポケモンのねっとうの威力を体験するスポットではない事は確かなので、常時打たせ湯を浴びる入り方は正しくないだろうと思う。

風呂から上がると、ニッコニコの番台さんはこう言った。
「今時、地下から汲んだ湯を直で出してる温泉なんて他にないんですよ。熱かったでしょ?」
「はい、今まで入った湯舟の中で断トツで熱かったです」と即答する私。
風呂上りの四人はゆでだこになっている。
後藤くんに関しては溶けすぎて別人のようになっていた。覇気がすべて湯に溶けてしまったらしい。常に遠くを見ている。
顔面くんは指先の皮が生まれ変わろうとしているのではないかと疑うレベルで剝けているし、
としめくんはあの熱湯の中で我慢比べを提案したらしい。ガチで死ぬぞ。

以上が私、きゃしろが体験した、不思議な温泉のお話。
入るのが少し億劫だったけれど(なんせ外観が外観である)、とても楽しい思い出になった。
そういう訳で、謎の家系温泉の巻、終了。